経験とは、過去の仕事を覚えていることではない。【1】
ものづくりの世界では、経験が大切だと言われます。
長年にわたって加工を続けてきた技術者には、多くの知識やノウハウが蓄積されています。
材料の特徴、工具の使い方、加工条件の選び方、機械の特性。
実際に仕事をしてきたからこそ身につくことは、数多くあります。
しかし、(株)アリスでは、経験年数が長いことと、経験を仕事に活かせることは、必ずしも同じではないと考えています。
同じ作業を10年間繰り返してきた人と、さまざまな課題に向き合いながら5年間仕事をしてきた人。
どちらが優れているかを、年数だけで判断することはできません。
大切なのは、どれだけ多くの仕事を経験したかということだけではなく、その経験から何を学び、次にどう活かしてきたかということです。
同じ仕事を繰り返しても、学べることはある。
例えば、同じ材質、同じ形状の部品を繰り返し加工する仕事があるとします。
一度加工方法を決めれば、次からは同じ手順で進められるかもしれません。
しかし、そこで考えることをやめてしまえば、仕事の進め方は変わりません。
もっと適した工具はないだろうか。
加工する順序を変えれば、段取り時間を短縮できないだろうか。
品質を安定させるために、確認方法を見直せないだろうか。
こうした疑問を持つことで、いつもの仕事が、新しいことを学ぶ機会になります。
もちろん、変更すれば必ず良くなるわけではありません。
従来の方法が、最も安定している場合もあります。
大切なのは、何も考えずに同じことを続けるのではなく、なぜその方法が適しているのかを理解することです。
一度考えて選んだ方法には、次の仕事に応用できる知識が残ります。
何となく続けてきた作業と、理由を理解して続けてきた作業。
完成する部品が同じでも、そこで身につく経験には違いが生まれるのです。
失敗を経験することと、失敗から学ぶことは違う。
ものづくりでは、どれほど注意していても、思いどおりにいかないことがあります。
寸法が安定しない。
加工中に材料が変形する。
工具の摩耗が想定より早い。
加工面の仕上がりが悪くなる。
こうした問題が起きたとき、まず必要なのは、何が起こっているのかを正確に確認することです。
例えば、加工した部品の寸法が図面の指定値から外れていたとします。
工具の摩耗が原因かもしれません。
材料の固定方法に問題があるのかもしれません。
加工中の熱や切削抵抗が影響している可能性もあります。
原因が分からないまま加工条件だけを変更しても、同じ問題が再発することがあります。
だから、問題を分けて考えます。
どの工程で違いが生じたのか。
何が変化したのか。
どの条件が結果に影響しているのか。
一つずつ確認しながら、原因を探していきます。
そして、対策を行ったあとには、その結果を確かめます。
問題が解決したのであれば、なぜ改善できたのかを考える。
十分な効果が得られなければ、別の原因や方法を検討する。
その積み重ねによって、失敗した経験が、次の仕事に役立つ知識へと変わっていきます。
失敗した回数が技術力になるのではありません。失敗から何を学んだかが、技術力につながるのだと思います。
昔の技術を知っているから、新しい技術も深く理解できる。
ものづくりの技術は、長い時間をかけて変化してきました。
手作業を中心とした加工から、CAD/CAMを活用した加工へ。
そして、CNC工作機械による高精度な切削加工へ。
コンピューター技術の進化によって、以前は多くの時間や経験を必要としていた作業も、効率的に進められるようになっています。
(株)アリスでも、こうした技術の変化と向き合いながら、ものづくりに取り組んできました。
しかし、新しい技術が登場したからといって、以前の経験が必要なくなるわけではありません。
例えば、切削加工中に発生する振動や工具の摩耗、材料の変形などは、加工機械が進化しても考慮しなければならない現象です。
コンピューターが加工経路を計算してくれても、その加工方法が適切かどうかを判断するためには、加工の仕組みを理解していることが役立ちます。
また、手加工で培った材料の感覚や、加工中に起こる現象についての知識が、新しい設備を使う際の判断につながることもあります。
もちろん、昔の方法が常に正しいわけでもありません。
新しい工具や加工技術によって、それまでの常識が変わることもあります。
そこで必要になるのは、過去の経験を大切にしながらも、新しい知識を受け入れる姿勢です。
経験を積んだからこそ、自分の考えに自信を持てることもあります。
しかし、その自信が強すぎると、別の方法を試す機会を失ってしまうかもしれません。
経験は、新しい技術を否定するためのものではなく、新しい技術をより深く理解するために活かすものです。