巴御前は本当に実在したのか。八百年の時を超えて語り継がれた女武者の謎【5】
巴御前は、板額御前をもとにつくられた人物なのだろうか
では、巴御前は板額御前をモデルにした架空の人物だったのだろうか。
この考え方には、確かに一定の理由がある。
二人とも、武芸に優れた女性として描かれている。
敵と戦い、その能力を高く評価されている。
さらに、敗北後に敵方の武将との婚姻が語られている。
しかし、ここで忘れてはいけないことがある。
巴御前と板額御前の物語は、すべてが同じというわけではない。
巴は木曾義仲に仕えた女性として描かれる。
板額は越後の城氏の一族として、自らの一族が関わる戦いに参加した。
巴は馬上での戦いに優れた女性として語られる。
板額は城の矢倉から強弓を放った女性として記録されている。
そして、巴の物語では義仲との別れが重要な場面になっているのに対し、板額の人生では一族の戦いと、その後の鎌倉での出来事が記録されている。
また、巴御前が最初にどのような姿で語られていたのかを、完全に復元できるわけでもない。
『平家物語』が成立する以前から、巴に関係する何らかの伝承が存在していた可能性もある。
それが後の物語の中で、板額御前の人生と似た要素を取り込んだのかもしれない。
あるいは、最初から複数の女性の記憶が重なり合って、巴御前という人物像が生まれた可能性も考えられる。
しかし、そのいずれかを事実として確定できるだけの材料は、現在のところ十分ではない。
ここは、答えを出さずに残しておきたい。
ただ、板額御前という人物の存在によって、巴御前の物語が、まったく現実離れした世界の中だけで生まれたものではないことも見えてくる。
少なくとも、女性が武器を持ち、戦場で能力を発揮したという現実が、同じ時代に存在していたのである。