田村麻呂は、なぜ二人を故郷へ返そうとしたのか
長い間、戦ってきた相手です。
普通なら、敵の大将を捕らえたら終わり。
そう考えても不思議ではありません。
でも田村麻呂は、アテルイとモレを殺そうとはしなかった。
故郷へ返そうとした。
私は、そこに田村麻呂自身の見方が表れていると思っています。
戦えば、その人間が分かる。
誰が臆病なのか。
誰が仲間を見捨てるのか。
誰が最後まで立つのか。
誰に人がついていくのか。
アテルイとモレには、人がついていた。
ただ怖がらせて従わせていたのではない。
長い間、土地の人たちが二人とともに立ち続けた。
田村麻呂は、それを何年も目の前で見ていた。
だから分かったはずです。
この二人は、ただの敵ではない。
この国をまとめている人間だ。
民から信頼されている。
話が通じる。
そして、この二人を殺したら、土地そのものが壊れる。
そう見たのではないでしょうか。
だから田村麻呂は、二人を生かして帰そうとした。
自分が勝ったから許してやる。
そんな話ではない。
この二人が必要だと分かっていた。
私は、そう考えています。
本当に土地を治めようと思えば、その土地の人を無視してはできません。
山を知る人。
水を知る人。
村と村の関係を知る人。
誰が誰を信頼しているかを知る人。
それを全部持っていたのが、アテルイとモレだった。
だから田村麻呂は、二人を消すより残す方を選んだ。
ところが中央の人たちは、現地を長く見ていない。
目の前にいるのは、
長年、支配に従わなかった二人。
帰せばまた人が集まる。
また国がまとまる。
そう見えた。
だから処刑した。
同じ二人を見ても、
現地で向き合った田村麻呂と、
遠くから支配を考えた人たちでは、
見え方がまるで違った。
私は、この違いが大きかったと思っています。
田村麻呂は二人を「危険だから殺すべき人」とは見なかった。
その土地に必要な人だと見ていた。
長く戦った敵だからこそ、
誰よりも二人の価値を分かっていたのかもしれません。