「恩を返す」より、日本人は「恩をつなぐ」と考えていた
誰かに助けてもらった。
その時、日本人は昔から、
「この恩は忘れない」
と言ってきました。
でも私は、恩というものは、必ずしも助けてくれた本人にそのまま返すだけのものではなかったと思っています。
子どもの頃に誰かに助けてもらった。
仕事を教えてもらった。
困った時に手を差し伸べてもらった。
でも、その人に同じことを返せない場合もある。
もう会えないかもしれない。
亡くなっているかもしれない。
それでも恩は消えない。
では、どうするのか。
次の誰かに渡す。
自分が助けてもらったから、今度は自分が誰かを助ける。
教えてもらったから、次の人に教える。
支えてもらったから、今度は別の誰かを支える。
私は、日本人の「恩返し」の本質は、ここにあったと思っています。
返すというより、
つなぐ。
だから恩は、一対一の取引ではない。
人から人へ流れていく。
昔の共同体では、この流れが止まらないことが大切だった。
誰かが困った時に助ける。
その人が元気になったら、また別の誰かを助ける。
そうやって地域全体が回っていく。
これは「お互いさま」ともつながります。
そして「おかげさま」ともつながる。
自分一人で今ここにいるわけではない。
誰かに支えてもらってきた。
だから今度は、自分が支える側になる。
私は、この感覚が日本人の強さだったと思っています。
恩を返せないから終わりではない。
返す相手がいなくても終わらない。
受け取ったものを、次へ渡せばいい。
技術も同じです。
知識も同じ。
優しさも同じ。
道具の使い方も同じ。
昔の日本人は、そうやっていろいろなものを次の世代へ渡してきた。
だから恩という言葉には、
人と人をつなぎ、時代までつなぐ力
があったのだと思います。
「恩を返す」。
そう考えると、少し重く感じることがあります。
でも、
「恩をつなぐ」
と考えれば、少し景色が変わる。
もらったものを、自分のところで止めない。
私は、それが昔の日本人が大切にしてきた、本当の恩の形だったと思っています。