土地に入るということは、人と結ばれるということ
饒速日さまの物語を見ていると、土地に根を張るというのは、単にそこへ移り住むことではないのだと思います。
長髄彦の妹を妻に迎え、その間に可美真手命が生まれたと伝わっています。
ここには、とても人間らしいものがあります。
遠くから来た人たちと、もともとその土地で暮らしていた人たち。
最初は違う集団だったはずです。
言葉や習慣も、考え方も違ったかもしれません。
けれど一緒に暮らし、仕事をし、やがて婚姻によって家族になる。
そうなると、「こちら側」と「あちら側」という境目は少しずつ薄くなっていきます。
長髄彦にとって饒速日さまは、単なる外から来た人物ではなく、妹の夫です。
そして可美真手命は甥になる。
饒速日さまにとっても、長髄彦はこの土地でできた家族です。
この関係を考えると、当時の出来事が急に政治や戦争だけの話ではなくなります。
そこには家族がいて、親戚がいて、子どもがいる。
誰かを守るということは、土地だけを守ることではありません。
そこで暮らしている人を守ることでもあります。
私は、饒速日さまたちがこの土地に根付いていった理由の一つは、こうした人とのつながりだったのではないかと思っています。
土地は、住んだから自分のものになるのではない。
人と関わり、家族ができ、思い出が増え、守りたいものができた時に、初めて故郷になっていく。
可美真手命の誕生は、その象徴のようにも見えます。
外から来た人と、この土地にいた人。
その二つが次の世代で一つになる。
歴史は、大きな出来事だけで動くものではありません。
家族ができる。
子どもが生まれる。
その小さな出来事の積み重ねが、やがて土地の歴史になっていくのだと思います。