レオナルド・ダ・ヴィンチさま|形ではなく、本質を見る
鳥を見て、鳥をつくろうとする。
人間の腕を見て、腕の形を真似する。
水の流れを見て、その形を描く。
それだけなら、目に見えるものを真似しているだけです。
レオナルド・ダ・ヴィンチが面白いのは、その先へ行ったことだと思います。
鳥の形ではなく、なぜ飛べるのか。
腕の形ではなく、なぜ動くのか。
水の形ではなく、なぜそのように流れるのか。
目に見えている「形」から、その奥にある「仕組み」へ入っていく。
私は、これが本質を見るということなのではないかと思います。
同じ形をつくっても、同じ働きにはならない
鳥と同じ形の翼をつくれば、人間も飛べる。
そんなに簡単なら、とっくに人間は空を飛んでいたでしょう。
鳥には骨があります。筋肉があります。関節があります。羽根があります。そして空気との関係があります。
飛んでいる姿だけを真似しても、その働きまでは再現できません。
では、何が必要なのか。
翼が空気を受ける。
力が生まれる。
身体を支える。
姿勢を変える。
前へ進む。
一つの「飛ぶ」という現象を分けていくと、その中にいくつもの働きが見えてきます。
形ではなく働きを見る。
すると、鳥と同じ姿でなくても「飛ぶ」という目的を実現できる可能性が出てきます。
現代の飛行機が鳥の姿をそのままコピーしていないのも、考えてみれば面白いことです。
人体も、表面だけでは分からない
人間の身体も同じです。
腕を見れば、腕の形は分かります。
でも、なぜ曲がるのかは外から見ただけでは分かりません。
皮膚の下に筋肉があり、その下に骨があり、関節があり、腱がある。
ダ・ヴィンチはそこまで見に行きました。
外から見える形を描くだけなら、解剖する必要はありません。
それでも中を見た。
きれいな人物画を描くためだけでは説明しきれないほど、内部の構造を調べています。
知りたかったのは「人間はどんな形をしているか」だけではなく、
「人間は、どういう仕組みで人間として動いているのか」
だったのではないでしょうか。
名前を知ることと、分かることは違う
私たちは、名前を知ると分かったような気になることがあります。
これは歯車。
これはベアリング。
これは樹脂。
これはモーター。
名前は大切です。
でも名前を知っただけでは、そのものを理解したことにはなりません。
なぜその材料なのか。
なぜその形なのか。
なぜそこに必要なのか。
どんな力がかかるのか。
何が起きると壊れるのか。
そこまで入っていくと、同じものが違って見えてきます。
ダ・ヴィンチが自然を見ていたときも、目の前のものに名前を付けて終わるのではなく、その中で何が起きているのかを知ろうとしていたように見えます。
本質が分かれば、形を変えられる
ここが、ものづくりでは特に面白いところです。
お客様から現物を渡され、
「これと同じものをつくってほしい」
と言われることがあります。
もちろん、そのまま同じ形をつくることもあります。
でも、その部品が何のためにあるのかまで分かれば、別の答えが見つかる場合があります。
傷を防ぐためなのか。
滑らせるためなのか。
位置を決めるためなのか。
絶縁するためなのか。
薬品から守るためなのか。
目的が分かれば、材料を変えられるかもしれません。
形を変えられるかもしれません。
構造を単純にできるかもしれません。
逆に、絶対に変えてはいけない部分も見えてきます。
表面の形だけを見ていると、全部が重要に見えます。
本質まで入ると、
変えていいところと、変えてはいけないところが分かる。
これは設計でも加工でも、とても大きな違いです。
原理原則は、違う問題にも使える
ダ・ヴィンチが人体、鳥、水、植物、機械と次々に違うものへ興味を広げたことを考えていると、一つのことに気づきます。
対象は変わっても、考え方はそれほど変わっていません。
見る。
疑問を持つ。
分ける。
仕組みを考える。
原理を探す。
そして別のものへ応用する。
だから専門分野が変わっても考えられる。
知識をそのまま持っていくのではなく、もっと下にある原理を持っていく。
私は、ダ・ヴィンチが「何でもできた」と言われる理由の一つは、ここにあるのではないかと思います。
本質を見るということ
本質を見る。
言葉にすると難しそうです。
でも、やっていることは案外単純なのかもしれません。
「これは何?」
だけで終わらず、
「なぜ?」
を一つ足す。
なぜ、この形?
なぜ、この材料?
なぜ、こう動く?
なぜ、ここが壊れる?
なぜ、これが必要?
その「なぜ」を繰り返していくと、表面にあったものが少しずつ剥がれていきます。
そして最後に残ったものは、別の問題にも使えることがあります。
500年以上前に鳥や人体や水を眺めながら、ダ・ヴィンチがどこまで同じことを考えていたのかは分かりません。
でも残された手稿を見ると、少なくとも表面だけで満足する人ではなかったことは伝わってきます。
株式会社アリスでも、初めて見る仕事では、まず「何のために必要なのか」を考えます。
形をつくる前に、役割を見る。
方法を決める前に、目的を見る。
本質が見えれば、答えは一つではなくなります。