「鬼」と呼ばれた人は、本当に鬼だったのか
昔話には、鬼がたくさん登場します。
山に住む鬼。
峠に現れる鬼。
都へ従わない鬼。
英雄によって退治される鬼。
角があり、牙があり、人を襲う。
けれど当然、発掘調査をしても角の生えた人骨が出てくるわけではありません。
では、「鬼」とはいったい何だったのでしょう。
ここで面白いのが、鬼が現れる場所です。
山。
峠。
国境。
都から離れた土地。
つまり、中央の人間から見れば「向こう側」の世界です。
鈴鹿峠にも鬼や盗賊の伝承が数多く残ります。
甲賀市は、鈴鹿峠が古くから交通の要衝であり、『今昔物語集』にも山賊が登場すること、そして中世には討伐が繰り返された地域だったと説明しています。甲賀市公式サイト
これは興味深い。
本当に妖怪がいたと考える必要はありません。
旅人を襲う山賊もいたでしょう。
中央の支配に従わない地域集団もいたかもしれません。
山を生活圏とする人々もいたでしょう。
都の人間から見れば、言葉も服装も生活習慣も違った可能性があります。
理解できないもの。
従わないもの。
恐ろしいもの。
それらが長い時間の中で「鬼」という姿へ変わっていった可能性を考えることはできます。
ただし、
「鬼=征服された先住民」
と単純に決めることもできません。
鬼という言葉には、怨霊、疫病、異界の存在、山賊など、さまざまな意味が重なっています。
だからこそ面白い。
鬼の伝承を見つけたとき、
「鬼なんて迷信だ」
で終わらせるのではなく、
ここには昔、どんな人がいたのだろう。
なぜこの場所で鬼が語られたのだろう。
山はどうなっているのか。
道はどこを通るのか。
近くに古い集落はないか。
神社はないか。
墓や塚は残っていないか。
一つずつ調べていく。
すると妖怪の話だったはずのものが、
少しずつ人間の歴史へ戻ってくることがあります。