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PPS樹脂とは?耐熱・耐薬品の特徴と加工ポイント

2025.11.21 チップス
PPS樹脂とは?耐熱・耐薬品の特徴と加工ポイント

半導体装置や検査装置では、「薬品に触れる」「温度が上がる」「寸法が狂うと不具合になる」という条件が同時に起きがちです。金属は腐食やイオン溶出、一般的な樹脂は熱や薬品で膨れ・割れ・変形が心配。そこで候補に上がりやすいのがPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)です。

この記事では、設計・試作担当の方が押さえるべき“材料としての強みと弱点”と、切削加工で起きやすい「欠け」「割れ」「工具摩耗」につながる前提条件を、経営者の方にも伝わる言葉で整理します。購買の方が悩みやすいPEEKとの線引きも、後半で判断軸としてまとめます。

PPS樹脂とは?一言でいうと

PPSは、耐熱性と耐薬品性、そして寸法安定性のバランスが良い“エンジニアリングプラスチック”です。ざっくり言うと、「熱にも薬品にも強く、形が安定しやすい樹脂」。装置部品で重要な“再現性(同じものが同じ精度でできる)”を作りやすいのが特徴です。

一方で、グレード(充填材の有無や配合)によって性質が大きく変わり、切削では欠けやすい条件もあります。カタログ上の強さだけで即決せず、用途条件と加工方法まで含めて選ぶのが失敗しない近道です。

充填材入りPPSが多い理由(強くなるが、加工は難しくなる)

現場で扱うPPSは、ガラス繊維や鉱物フィラーなど“充填材入り”が多い傾向があります。理由はシンプルで、剛性や寸法安定性が上がり、温度変化でも形状が崩れにくくなるからです。

ただし、充填材入りは次のような副作用も出ます。

  • 材料が硬くなり、工具摩耗が早くなる(刃が削られる)
  • シャープな角で欠けやすく、薄肉で割れが出やすい
  • 方向性(繊維の向き)によって反りや寸法の出方が変わる場合がある

「PPS=加工しやすい樹脂」というより、「目的に合ったグレードと加工条件をセットで決める樹脂」と捉える方が実務では安全です。

切削用PPS素材で起きがちな誤解

  • 板や丸棒だからといって、必ずしも“未充填”とは限らない(充填材入りの切削素材も多い)
  • 同じPPS表記でも、メーカーやグレードで硬さ・欠けやすさが違う
  • 量産は射出成形、試作は切削加工…と工程が変わると、表面性状や寸法の癖も変わる

試作で「思ったより割れる/欠ける」と感じたら、材料グレードと加工条件のどちらも疑うのが定石です。当社(株式会社アリス)でも、用途条件を伺ったうえで素材提案と加工条件の当たり付けを行い、試作段階の手戻りを減らす進め方を重視しています。

どんな部位で採用されやすいか

薬品×温度の影響を受ける装置では、次のような“困りごと”がある部位でPPSが検討されます。

  • 薬液の飛散や蒸気にさらされる周辺のカバー、スペーサー、治具類
  • 温度変化で寸法ズレが出ると、検査精度や位置決めに影響する部品
  • 金属だと腐食や汚染リスクがあり、樹脂に置き換えたい部位
  • ねじ止めや治具固定があり、剛性も必要な構造部品

PPSが“向く条件”と“向かない条件”

向く条件(得意な方向性)

  • 熱と薬品が同時にかかるが、部品は薄肉ではなく、剛性も確保できる
  • 位置決めや繰り返し精度が必要で、寸法の安定性を重視したい
  • コストは抑えたいが、一般的な樹脂では不安が残る

向かない条件(事前に要注意)

  • 角が立った薄肉形状、細い突起、タップ周りなど“欠けやすい形”
  • 高い摺動負荷や衝撃が繰り返し入る構造(割れや欠けの原因)
  • 強い酸化性の薬品など、条件次第で劣化が早まる環境
観点PPSの傾向設計・調達での注意
耐熱高温域でも形が崩れにくい傾向「何℃で何時間」かで評価が変わる。連続使用条件で検討
耐薬品多くの薬品で膨れにくい傾向濃度・温度・応力で結果が逆転することがある。実環境に近い試験が有効
寸法安定吸水の影響を受けにくく、精度管理しやすい充填材入りは方向性(異方性)が出る場合がある
加工性条件次第で欠け・バリが出やすい刃物・固定・切削条件の最適化が前提。試作段階で要検証
コストPEEKよりは抑えやすいことが多い「性能の余裕」をどこまで買うか、線引きが重要

薬品×温度環境で起きる“材料トラブル”の正体

材料選定で見落としやすいのが、「耐薬品」と「耐熱」を別々に見てしまうことです。実際には、温度が上がるほど薬品の作用は強くなり、さらに部品に残った応力(加工ひずみ、ねじ締結、組付けの偏り)が加わると、割れやクラックが急に出ることがあります。

特に試作段階では、切削加工で角部に微小な欠けが残り、そこが“割れの起点”になるケースがよくあります。材料のせいに見えて、実は形状・加工・締結条件の組み合わせが原因、ということも少なくありません。

評価を早くするためのチェック項目

  • 薬品:種類、濃度、液温、接触時間(連続か、間欠か)
  • 温度:常温だけでなく、昇温時・冷却時の繰り返しがあるか
  • 応力:ねじ締結、圧入、曲げ荷重、固定の偏りがかかるか
  • 形状:薄肉、角、細穴、タップ、リブなど欠けやすい要素が多いか
  • 加工:切削か成形か、充填材入りか、仕上げ面粗さの要求は何か

PPSの耐熱性の特徴と、設計での考え方

PPSが“耐熱樹脂”として扱われる理由は、温度が上がっても剛性が落ちにくく、寸法が暴れにくい傾向があるからです。装置でよくある「温度が上がったら穴ピッチがずれて組めない」「反りでシール面が浮く」といったトラブルの抑制に効きます。

ただし、どの樹脂でも同じですが、高温下では次のような変化は起きます。重要なのは“ゼロになる”のではなく、“管理しやすい範囲に収まるか”です。

高温で起きやすい変化

  • クリープ(荷重が一定でも、じわじわ変形が進む)
  • 熱膨張によるクリアランス変化(嵌合のきつさが変わる)
  • 長期での物性低下(雰囲気や薬品で加速することがある)

設計で効くコツ(先に入れるだけで楽になる)

  • 角を立てず、Rを入れて応力集中を避ける(欠け・割れの予防にも有効)
  • 薄肉一枚板を避け、厚みの偏りを減らす(反りの原因を減らす)
  • ねじ締結は座面を広く取り、局所に荷重を集めない
  • 高温で締結力が変わる前提で、ワッシャ・インサートなども検討する

PPSの耐薬品性の特徴と、試作での進め方

PPSは、薬品による膨れや溶けにくさの面で優位に働くケースが多く、装置の“薬液周りの樹脂化”で候補に上がります。とくに「一般的な樹脂だと、寸法が変わってしまう」「表面が荒れて粉が出る」といった課題に対して、検討価値があります。

一方で、薬品の影響は“温度・濃度・時間・応力”で大きく変わります。評価は、できるだけ実環境に近づけるのが最短ルートです。

現場で失敗しない評価の段取り

  • 想定薬品をリスト化し、液温と接触時間を明確にする(「たまに飛ぶ」も条件に入れる)
  • まずは小片で浸漬し、重量変化・寸法変化・表面変化を確認する
  • ねじ締結や曲げ荷重を与えた状態でも試す(応力があると割れやすさが変わる)
  • 試作は“同じ材料・同じ加工条件”で複数個つくり、ばらつきも見る

切削加工で起きやすいトラブルと原因の整理

PPSは「硬くて寸法が安定しやすい」一方、切削では“欠け・割れ・バリ・工具摩耗”が同時に起きやすい材料です。トラブルの多くは、材料そのものよりも「形状」「固定」「刃物」「切削条件」「工程順序」の組み合わせで発生します。まずは原因を分解して、対策を当てていきます。

欠け(エッジ欠け)が起きる典型パターン

欠けは、角部や穴の出口、薄肉部の端面で起きやすい現象です。PPS(特に充填材入り)は、衝撃や局所的な応力集中に弱い場面があり、刃物が“叩く”ように当たると欠けが出ます。

欠けの主因は大きく3つです。

  • 刃物が鈍い/刃先が丸い(削るというより“押しつぶす”状態)
  • 振動・たわみで刃が断続的に当たる(固定不足、突き出し過多)
  • 入口・出口で材料が支えられていない(貫通穴の裏、端面加工の抜け際)

対策は「切削を優しくする」だけでは不十分で、支え方と刃物の切れ味をセットで見直すのが効きます。

欠けが出やすい場面起きやすい理由効きやすい対策
外周のシャープエッジ応力集中+抜け際の衝撃先に面取り/小R、最終工程で仕上げ切削
貫通穴の出口裏側が支えられず割れやすい当て板を使う、段付き加工で一気に抜かない
薄肉のスリット/コーナーたわみ・ビビりが出る固定面積を増やす、加工順序を変更
小径エンドミル加工刃先が逃げやすく断続切削工具突き出し短縮、ヘリカル進入、軽切込み

割れ(クラック)が出るときの考え方

割れは「加工中にパキッと入る」場合もあれば、「組付け後に時間差で出る」場合もあります。後者は特に厄介で、原因が薬品・温度・締結応力など複合になりやすいのが特徴です。

割れの引き金になりやすいのは次の3点です。

  • ねじ締結・圧入などで常に応力がかかっている
  • 角、段差、タップ下穴の底など“切欠き”がある
  • 加工熱や加工ひずみが残っている(表面に微細なクラックが入ることも)

加工面での対策としては、切欠きを減らし、熱と応力を溜めない工程設計にします。例えば、深いポケットは一気に仕上げず、荒取り→中仕上げ→仕上げの3段階で負担を分散させる、タップ前に面取りを入れて入口欠けを防ぐ、といった基本が効きます。

バリ・毛羽立ちが出るときの原因

PPSは条件によって、端面にバリが残ったり、繊維/フィラーの影響で“ささくれ”のような状態になったりします。無理なバリ取りは欠けを誘発するため、バリを「出さない」「取りやすく出す」方向で設計・加工を組みます。

  • 仕上げで“擦る”条件になると、バリが伸びる(切れ味不足、送りが小さすぎる)
  • 刃先に溶着・付着が起きると、表面が荒れやすい(切粉排出不足)
  • 抜け際でバリが立ち、後工程の手作業で欠けやすくなる

対策は、切粉が逃げる刃形と、適正な切りくず厚み(薄すぎない)を作る条件設定です。

欠け・割れを減らす加工の具体策

ここからは、試作担当者が“そのまま段取りに落とせる”レベルで、実務上のポイントをまとめます。

刃物選定の基本:まず「切れ味」と「摩耗耐性」

充填材入りPPSは摩耗が早いので、工具は「鋭い切れ味」と「摩耗に耐える材質」の両立が必要です。一般論としては、超硬の高品質エンドミルを基本に、摩耗が厳しい量や条件ではPCD(ダイヤ)系も検討します。

工具候補向く場面注意点
超硬(高精度)試作・少量、形状が複雑摩耗で切れ味が落ちたら欠けが増える。早めの交換が効く
DLC等のコーティング超硬摩耗が気になる、面粗さも欲しいコーティングでも刃先が鈍いと逆効果。刃形が重要
PCD(ダイヤ)充填材が多い、長時間加工、工具寿命重視工具コストと形状制約。段取り・再研磨も含めて検討

「工具寿命を伸ばすために切削を弱くする」と、擦りが増えて欠け・バリが悪化することがあります。摩耗の早い材料ほど、切れ味を維持する方が品質は安定しやすい、というのが現場の実感です。

切削条件の考え方:ビビりと発熱を避ける

PPSのトラブルは、ビビりによる断続衝撃と、局所的な発熱による加工ひずみが中心です。数字の“正解”は機械剛性や工具で変わりますが、方向性は共通です。

  • 荒取りは切粉がしっかり出る条件で、擦りを避ける(送りが小さすぎない)
  • 仕上げは一発で削り切らず、軽切込みで“当たり”を安定させる
  • 工具突き出しは短く、ワーク固定は面で支える(点で押さえない)
  • 穴加工は段階加工(下穴→仕上げ)で出口欠けを抑える

冷却については、樹脂は「冷やしすぎると割れる」というより、切粉が溜まって刃先が熱を持つ方が問題になります。エアブローで切粉を逃がし、必要に応じてミスト等で温度を抑える、という考え方が扱いやすいです。装置用途では洗浄性も重要なので、切削油の選定や洗浄工程(超音波、純水洗浄など)も、初期から前提条件に入れておくと後戻りが減ります。

また、加工ひずみが疑われる場合は、試作段階で応力緩和(焼きなまし)を検討すると、時間差のクラック対策になることがあります。温度条件によっては反りが出るため、材料メーカー推奨の条件や形状に合わせた治具で管理するのが安全です。

工程順序で差が出る:最後にエッジを作る

欠けやすい部位ほど、早い工程で“完成形の角”を作らないのがコツです。外周や穴の面取り・小Rは、できれば最終工程で入れます。先に角を作ると、その後の固定や加工で角が当たり、欠けの起点になります。

また、小物部品は最後の切り離し(外形抜き)の瞬間に欠けやすいので、タブ(つなぎ)を残して最後に切る、当て板を使って抜け際を守る、といった段取りが効果的です。

ねじ・穴まわりの設計と加工の注意点

薬品×温度環境の部品は、ねじ締結が多くなりがちです。PPSで割れを防ぐには、ねじ・穴まわりの“局所応力”を減らす設計が重要です。

部位起きやすい不具合設計・加工の打ち手
タップ入口欠け、バリ、ねじ山の荒れ面取りを入れる、下穴精度を安定させる、工具の切れ味管理
下穴の底クラックの起点底Rを確保、止まり穴は余裕を取る、無理な締結を避ける
穴の縁(端面近い)端割れ端距離を確保、肉厚を増やす、インサートの活用
座面締結応力の集中座面径を広げる、ワッシャ等で荷重分散

PPSは「強い材料」ですが、ねじ部のように応力が集中するところでは、形状の作り込みで寿命が大きく変わります。試作段階で、締結トルクやワッシャ有無まで含めて評価すると、量産移行がスムーズです。

PPSとPEEKの比較:性能差が出るポイント

購買や設計の現場で悩みやすいのが「PPSで足りるのか、それともPEEKまで上げるべきか」です。結論から言うと、PEEKは“より高温・より高負荷・より長期”に余裕を持たせたいときの材料で、PPSは“薬品×温度×寸法安定”をコストと両立しやすい材料、という位置づけになります。

比較観点PPSPEEK
耐熱の余裕高温域に強いが、上限はPEEKより低い高温域での余裕が大きい
耐薬品多くの薬品に強い傾向多くの薬品に強く、用途幅が広い
剛性・寸法安定充填材入りで安定させやすい強度・靭性も含めてバランスが良い
衝撃・割れにくさ形状次第で欠け・クラックに注意余裕を取りやすい(条件次第)
加工の難しさ充填材入りは摩耗が早い材料単価が高く、試作コストも上がりやすい
コスト感相対的に抑えやすい高価になりやすい

重要なのは、PEEKを選ぶ理由が「なんとなく安心」になっていないかです。装置部品は点数が多いぶん、材料グレードを上げるだけでコストが積み上がります。逆に、PPSでギリギリを攻めると、欠け・割れ・寸法ズレの手戻りで、結果的に高くつくこともあります。

線引きの実務ルール:PEEKを優先したいケース

次の条件が重なるほど、PEEK優先の判断がしやすくなります。

  • 温度条件が厳しく、さらに長期で寸法や強度を維持したい
  • ねじ締結や圧入など“常時応力”が大きい構造で、割れリスクを下げたい
  • 薄肉・細穴・突起など、形状的に欠けやすい制約が外せない
  • 摺動や摩耗が支配的で、寿命で材料差が出やすい
  • 交換が難しい部位で、保守コスト(停止損)まで含めて最適化したい

PPSで十分になりやすいケース

  • 薬品×温度環境だが、荷重は比較的軽く、剛性と寸法安定が主目的
  • 形状にRや肉厚の余裕があり、欠け対策を設計に織り込める
  • 試作段階で浸漬や温度サイクルの当たり付けができる
  • 部品点数が多く、材料費の影響が大きい(性能の“買い過ぎ”を避けたい)

価格の線引き:購買が説明しやすい考え方

材料選定で揉めるのは、「価格」だけが先に見えて、失敗したときのコストが見えないからです。社内説明を通しやすくするには、次の3つに分けて整理するとスムーズです。

  • 材料費:PPS→PEEKでどれだけ上がるか(部品点数×単価)
  • 試作費:工具摩耗や加工時間、作り直し回数の差
  • 事故費:割れ・欠けが原因で装置停止や検査不良が出た場合の損失
判断の軸PPS採用に寄せやすいPEEK採用に寄せやすい
交換・保守交換しやすい(予防保全が可能)交換が難しい/停止損が大きい
形状余裕R・肉厚・座面に余裕がある薄肉・角・細穴など制約が強い
応力の大きさ応力が小さい/分散できる常時応力が大きい/集中しやすい
評価のしやすさ試作評価が回せる評価に時間がかかる/やり直しが重い

「PEEK採用の理由」を上の軸で言語化できれば、単なる高級材の採用ではなく、リスク低減として説明しやすくなります。

迷ったときの選定フロー(試作担当・購買向け)

  1. 薬品(種類・濃度・液温・接触時間)と温度条件を先に固定する
  2. 次に、応力のかかり方(締結、圧入、曲げ)と形状リスク(薄肉、角、細穴)を洗い出す
  3. 欠けやすい要素が多いなら、設計でR・肉厚・座面を見直す(それでも厳しければPEEK)
  4. PPSを選ぶなら、工具摩耗・欠け対策を前提に加工条件を作り込む
  5. 最後に、短期試験(浸漬+締結状態+温度)で“時間差クラック”まで確認する

当社のような試作加工の現場では、図面だけでなく「薬品」「液温」「締結トルク」「洗浄条件」まで共有いただくと、欠け・割れの地雷を早い段階で潰せます。

よくある質問

薬品名が確定していません。どう進めればいいですか?

まずは「酸/アルカリ/溶剤」「濃度」「液温」「接触の仕方(浸漬か飛散か)」を押さえます。薬品名が未確定でも、系統と温度が分かるだけで候補材の当たり付けができます。条件が揃ったら、小片の浸漬+外観/寸法チェックを最短で回すのが現実的です。

欠けが出たら、材料を変えるべきですか?

いきなり材料変更より先に、「角の処理(面取り・小R)」「当て板」「工具の切れ味」「固定方法」を疑うのが近道です。PPSは段取りで改善余地が大きく、加工で直せる欠けと、形状が原因で逃げられない欠けがあります。

試作は切削、量産は成形でも大丈夫ですか?

可能ですが、同じPPSでもグレードや繊維方向で特性が変わるため、試作で得た寸法・割れの傾向がそのまま出ない場合があります。重要部位ほど、量産想定の材料・条件に寄せて評価するのが安全です。

まとめ

PPS樹脂は、装置部品で問題になりやすい 「温度上昇」「薬品曝露」「寸法ズレ」 が同時に起きる環境でも、耐熱・耐薬品・寸法安定のバランスを取りやすいエンプラです。特に、金属では腐食や汚染が気になる領域で、樹脂化の選択肢として現実的な落としどころになりやすく、PEEKほどコストを上げずに安全側へ寄せたい場面で検討価値があります。

一方で、現場でつまずきやすいのは「材質選定ミス」よりも、充填材入りPPSの“硬さ”による工具摩耗や、角部・薄肉・穴出口などで起きる 欠け/割れ(クラック) です。PPSは「強い樹脂」ですが、実務では 形状(角R・肉厚・座面)+締結応力+加工条件 の組み合わせで結果が大きく変わります。だからこそ、採用判断はカタログ値だけで決めず、薬品×温度×応力を揃えた短期評価で当たりを付けるのが最短ルートです。

また、購買・設計で迷いがちな PPSとPEEKの線引きは、単価ではなく「失敗したときの損失」で決まります。

  • 形状に余裕があり(R・肉厚が取れる)、応力を分散できるならPPSで成立しやすい
  • 薄肉・角・細穴・常時高応力・交換困難など“地雷条件”が重なるならPEEKを優先した方が総コストが下がることがある

株式会社アリスでは、PPS部品について 材料グレードの選定(充填材有無含む)→切削試作→欠け/割れの起点になりやすい形状の見直し→加工条件の当たり付けまで、手戻りを減らす前提でご相談いただけます。
「PPSで足りるか、PEEKまで上げるべきか」を早く決めたい場合も、評価の組み方から一緒に整理可能です。

ご相談・お見積りをスムーズに進めるため、まずは以下だけ共有いただけると提案が具体化します。

  • 薬品条件:薬品名(または系統)、濃度、液温、接触時間(連続/間欠、飛散/浸漬)
  • 温度条件:常時温度/ピーク温度/温度サイクルの有無
  • 応力条件:ねじ締結トルク目安、圧入の有無、曲げ荷重、固定方法
  • 形状の要注意点:薄肉・角・細穴・タップ・突起などの有無
  • 要求仕様:重要寸法、公差、面粗さ、外観、洗浄・梱包の要否、数量・納期

「欠けが出て困っている」「割れが時間差で出る」「工具摩耗でコストが読めない」など、現象ベースの相談でも構いません。PPSを“使える材料”として安定させるために、設計・加工・評価をセットで最短化する形でご支援します。

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